SNSを始めるか、広告を出すか、ブログを書くか。集客の手段を選ぶ前に、決めるべきものがあります。「誰を、どんな未来に連れて行く専門家なのか」という一文、つまりポジションです。ポジションが決まっていないまま始めた集客は、どの手段を使っても言葉が薄まり、誰にも届きません。そしてこのポジションは、机の上でひねり出すものではなく、先に決めた本命商品を「お客様に見つけてもらうための言葉」に翻訳することで生まれます。この記事では、なぜ集客より先にポジションなのか、そして商品をポジションの一文に言語化する手順を、私自身の実体験と個別相談の記録からお伝えします。
集客の相談の多くは、手段の相談ではなく「名乗り」の相談である

「どのSNSから始めればいいですか」「広告とブログ、どちらがいいですか」。集客の相談は、たいてい手段の質問から始まります。気持ちはよく分かります。集客と聞くと、私たちはまず道具を思い浮かべるからです。
でも、私はビジネスコーチとして、個別相談800人超・セッション6,000時間超の記録を見てきました。その中で、集客に悩む方の発信を実際に見せていただくと、直すべき場所は手段ではないことがほとんどでした。プロフィールを読んでも、投稿を読んでも、「この人は何の専門家で、誰を、どこへ連れて行ってくれる人なのか」が分からないのです。分からないのは、文章が下手だからではありません。本人の中で、それがまだ一文になっていないからです。一文になっていないものは、どんな媒体に載せても伝わりません。
ここで、この記事の土台になる定義を書いておきます。
ポジションとは、「誰を、どんな未来に連れて行く専門家なのか」を一文で言い切った、市場に立てる旗のことです。
集客の手段は、乗り物にすぎません。SNSも広告もブログも、言葉を運ぶ仕組みであって、運ぶ言葉そのものを作ってはくれません。旗のないまま乗り物だけを乗り換えるから、どの手段を試しても同じ結果になるのです。集客の前にやるべきことがある、という話はコーチングで集客する前にやるべきことという記事で昔から書いてきましたが、その「やるべきこと」の中心が、この旗を立てることです。
順番は「商品→ポジション→集客」——ポジションは、商品の翻訳である

では、旗はどうやって立てるのか。ここで、順番の話を先にしておきます。
前号のコーチングを本業にする人が最初にやることで、本業化の起点は本命商品をひとつ決めることであり、ポジションは商品を決めた結果として定まる、と書きました。「この商品で、この人を、ここまで連れて行く」と具体的に決めると、「誰を、どんな未来に連れて行く専門家か」という一文は、商品の定義として自動的に出てくる。この結論は、今回もまったく変わりません。ですから、商品がまだ決まっていない方は、先に前号から読んでいただくのが正しい順番です。
今回はその続き、つまり商品を決めた人の話です。商品を決めた時点で、ポジションの一文の素材は、確かに手元に生まれています。ただし、その一文はまだ自分の中にしかありません。設計図の言葉のままなのです。設計図の言葉は、自分が読むためのものであって、お客様が見つけるためのものではありません。ここに、集客を始める前の、もう一段の作業が要ります。ポジションの言語化とは、商品の定義を、お客様が「私のことだ」と気づく言葉に翻訳する作業です。商品→ポジション→集客。この真ん中の段を飛ばすかどうかで、同じ商品・同じ手段でも、集客の結果はまるで変わります。
翻訳と呼ぶのは、大げさな比喩ではありません。同じ内容でも、自分側の言葉とお客様側の言葉は、本当に別の言語だからです。表で比べてみます。
| 旗に書いた言葉 | お客様に何が起きるか |
|---|---|
| 「傾聴と質問で、あなたの自己変革を支援します」 | 何も起きない。「傾聴」も「自己変革」も、お客様が自分の悩みを語るときに使う言葉ではないから |
| 「あなたの目標達成をサポートするコーチです」 | 素通りされる。誰の、何の目標なのかが書かれていないから |
| 「副業で学んだコーチングを、本業の収入に変えたい会社員のための専門家です」 | 該当する人が足を止める。自分の状況と願いが、自分の言葉で書かれているから |
上の2つと3つ目の違いは、文章のうまさではありません。視点の位置です。上の2つは自分のやることを説明していて、3つ目はお客様の状況と願いを描いています。商品を決めた人は、翻訳の素材をすべて持っています。あとは、その素材をお客様側の言語に写し替えるだけです。この翻訳を飛ばして集客を始めると、商品はあるのに市場から見えない、という一番もったいない状態になります。
ポジションを決めずに集客を始めると、努力はどこへ消えるのか

旗のないまま集客を始めると、何が起きるのか。私が繰り返し見てきた典型的な流れは、3つです。
- 発信が「誰にでも」向けになる——絞る基準がないので、当たり障りのない良い話が並び、誰の心にも刺さらない
- 手段を渡り歩く——反応がないのは手段のせいだと考え、次は動画、次は広告と乗り換え続ける。旗がないままなので、どこへ行っても同じ結果になる
- 数字は増えても、申し込みは増えない——フォロワーやアクセスが集まっても、その人たちは「何の専門家か」を知らないので、商品の話をした途端に離れていく
あるクライアントは、とても真面目な方で、1年近くほぼ毎日SNSの発信を続けていました。学びの引用、日々の気づき、前向きな言葉。投稿の量は、十分すぎるほどでした。それでも、体験セッションの申し込みは思うように入りません。私が最初にお願いしたのは、投稿を増やすことでも、媒体を変えることでもありませんでした。「あなたは誰を、どんな未来に連れて行く専門家ですか」という問いに、一文で答えることです。この一文が決まってから、発信の中身は自然に変わっていきました。書くべきことと、書かなくていいことが、旗を基準にはっきり分かれるようになったからです。手段は何ひとつ変えていないのに、です。
ポジショニングが大事だという知識は、多くの方が持っています。それでも定まらないのは、考える力が足りないからではありません。翻訳のもとになる商品がまだ決まっていないか、決めた商品を言葉に写す作業をしていないか、そのどちらかです。このことはポジショニングが定まらない理由という記事でも、昔から同じことを書いています。頭の中で「良いポジション」を探し回るのをやめて、自分の商品から写し取る。それだけで、何年も定まらなかった一文が、その日のうちに書けることも珍しくありません。
強い旗は「狭い」——大きなポジションほど、誰にも刺さらない

ポジションの一文を書くとき、必ずぶつかる誘惑があります。旗を大きくしたくなるのです。「対象をこんなに絞ったら、それ以外のお客様を逃してしまうのではないか」。この不安から、「がんばるすべての人を応援します」のような、誰でも入れる大きな旗を掲げたくなります。
でも、旗の大きさと、動く人の数は、比例しません。むしろ逆です。理由は単純で、お客様は「自分のための専門家」を探しているからです。悩みが深い人ほど、「みんなのための何でも屋」ではなく、「私のような人間を専門に見ている人」を選びます。体の不調で考えると分かりやすいと思います。「体の悩み、何でもご相談ください」という看板と、「あなたのその症状を専門に診ています」という看板。深刻に悩んでいる人が足を運ぶのは、後者です。大きい旗は、多くの人にうっすら届いて、誰の「私のことだ」も起こせません。狭い旗は、少数の人に深く刺さって、その人を実際に動かします。集客に必要なのは、前者ではなく後者です。大きく構えるほど失敗する構造については、大きいポジションは失敗するという記事でも書きました。
私自身の旗も、狭いものです。私はコーチングの技術を教える先生ではなく、人生全般の相談に乗るコーチでもなく、「稼げていないコーチや個人事業主が、自分の商品で稼げるようになる」ことを専門にするビジネスコーチです。この旗を立てているから、ブログもメルマガも、書くべきことに迷いがありません。旗の外の話題は、どれだけ書けそうでも書かない。その一貫性が、時間とともに「この分野ならこの人」という認知を作っていきます。コンサル歴15年の実感として言えば、旗を狭くして困ったことより、旗がぼやけていた時代に失ったもののほうが、はるかに大きかったです。狭くすることは機会を捨てることではなく、届く深さと、積み上がる速さを買うことなのです。
ポジションの言語化——商品の3行を、お客様の言葉に写し替える

では、実務です。前号で、本命商品の骨組みは「誰を・どこへ・どうやって」の3行で決まる、と書きました。ポジションの言語化は、この3行のうち「誰を」と「どこへ」を、お客様側の言葉に写し替える作業です。手順は3つです。
- 手順① 「誰を」を、その人が自分だと気づく言葉に直す——属性だけでなく、状況と悩みまで書く(「30代の女性」ではなく「資格を取ったのに、初めての契約がまだ取れていない副業コーチ」)
- 手順② 「どこへ」を、その人が口にする願いの言葉に直す——専門用語ではなく、その人が夜にスマホで検索する言葉で書く(「自己実現の支援」ではなく「コーチングを本業にして、会社に頼らずに食べていける状態」)
- 手順③ 一文に組んで、確かめる——「私は、(誰)が(未来)を手に入れるための専門家です」の形に組み、理想のお客様に近い人に見せて、「これは私のことだ」という反応が返ってくるかを確かめる
いちばん大事なのは、手順③の「確かめる」です。ポジションの一文の合否を決めるのは、自分の納得感でも、言葉のかっこよさでもなく、想定したお客様の反応だけだからです。見せられる相手がいなければ、過去の自分に見せるつもりで読み返してください。稼げなかった頃の自分がこの一文を見て、足を止めるかどうか。止まらないなら、まだ翻訳が済んでいません。原因はたいてい、「誰を」がぼやけているか、「どこへ」が自分側の言葉のままか、どちらかです。
そして、ひとつ注意があります。完璧な一文を作ろうとして、ここで止まらないでください。ポジションの言語化は、集客を始める前に一度やれば終わり、というものではありません。旗を立てて、発信して、お客様の反応を見て、言葉を磨き直す。この往復を重ねるほど、一文は強くなっていきます。最初の一文は、70点で構いません。旗のない100点の発信より、70点の旗を掲げた発信のほうが、はるかに遠くまで届きます。
まとめます。集客を始める前に決めるべきものは、ポジション、つまり「誰を、どんな未来に連れて行く専門家か」という一文の旗です。順番は、商品→ポジション→集客。本命商品を決め、その定義をお客様の言葉に翻訳して旗を立て、それから旗に合う手段を選ぶ。もし今、集客の手段のノウハウを調べている途中なら、いったん検索の手を止めて、一文を書いてみてください。私は、誰が、どんな未来を手に入れるための専門家なのか。この一文が書けたとき、どの手段を選ぶべきかは、驚くほど簡単に決まります。
よくある質問
ポジションと肩書きは、何が違うのですか?
肩書きは名乗りの形式で、ポジションは中身です。「◯◯コーチ」という肩書きの名前をどれだけ工夫しても、「誰を、どんな未来に連れて行くのか」が入っていなければ、旗にはなりません。逆に、その中身が一文で言えていれば、肩書きそのものは平凡でも集客は機能します。順番は、ポジションの一文が先。肩書きは、その一文の要約として後から付けるものです。
対象を狭く絞ると、それ以外の人からの依頼を断ることになりませんか?
旗の狭さと、受け入れる範囲の広さは、別の話です。旗は「誰に向けて発信するか」の基準であって、「旗の外の人と契約してはいけない」という規則ではありません。実際には、狭い旗を立てると、旗の周辺にいる方からの相談も増えます。「専門はあの人たちだけれど、この人なら私の話も分かってくれそうだ」と感じてもらえるからです。大きい旗で誰にも見つからないより、狭い旗で深く見つかるほうが、結果として出会える人の総数も増えます。
ポジションが、他のコーチとかぶってしまいます。
かぶること自体は、問題ではありません。お客様は「世界にひとつしかない旗」を探しているのではなく、「私のことを分かってくれる旗」を探しているからです。それでも差をつけたいなら、「誰を」の解像度を上げてください。あなたが一番力になりたい1人の状況と悩みを具体的に書き込むほど、その一文は、あなたの経験からしか書けないものになっていきます。独自性は、ひねり出すものではなく、具体性の結果として生まれるものです。
一度決めたポジションは、あとから変えてもいいのですか?
構いません。むしろ、商品が磨かれ、お客様との経験が増えるほど、「誰を」「どこへ」の言葉はより正確に書き直せるようになります。私自身の旗も、最初から今の形だったわけではありません。大事なのは、変える理由です。「反応がなくて不安だから」ではなく、「お客様の反応から、もっと正確な言葉が見つかったから」であること。旗は、逃げるためではなく、狙いを定め直すために書き換えるものです。
商品がまだ決まっていません。ポジションの一文だけ先に作ってもいいですか?
おすすめしません。売る商品のないポジションは、名乗りだけで終わるからです。一文がどれだけ魅力的でも、旗の下に案内する商品がなければ、集客は成果につながりません。順番は、商品→ポジション→集客です。まず前号のコーチングを本業にする人が最初にやることに戻って、本命商品の3行(誰を・どこへ・どうやって)を決めてください。その3行が決まれば、ポジションの一文は、この記事の手順でそのまま書けます。
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