なぜ、スキルを増やしても稼げないのか——足りないのは能力ではなく「商品」です

資格を取り、講座に通い、スキルを増やし続けてきたのに、収入だけがずっと変わらない。その原因は、能力不足でも努力不足でもありません。スキルは、それだけではお金に変わらないからです。スキルがお金に変わるのは、商品という形になり、それを必要とするお客様に届いたとき。この2つの条件が揃ったときだけです。そして、この条件を知らないまま重ねるスキルの追加は、多くの場合、「何を売るか」を決めることからの逃避になっています。この記事では、スキルがお金に変わる条件を正面から解き、いま手元にあるスキルをお金に変える手順までお伝えします。

目次

「スキルが足りないから稼げない」という診断が、間違っている

本の山の上に立つ人と谷の向こうのコインの山のあいだに橋が架かっていない図——スキルの量と収入がつながっていない

稼げていない時期、私たちは自分をこう診断します。「まだスキルが足りないのだ」と。だから学びます。資格を取り、新しい手法を習い、上位の講座に進みます。この診断のいちばん厄介なところは、間違っているのに、努力した実感だけはしっかり残ることです。動いているのに近づいていない。その状態が、何年でも続いてしまいます。

私はビジネスコーチとして、個別相談800人超・セッション6,000時間超の記録を見てきました。その中で、稼げていない方に共通していたのは、スキルの不足ではありません。むしろ逆です。稼げていない方ほど、学んできた量は多いのです。コーチングの資格をいくつも持ち、心理学を学び、カウンセリングの手法まで修めている。セッションをすれば、目の前の人をきちんと変化させられる。それでも収入は、ゼロに近い。一方で、持っている手法は決して多くないのに、しっかり稼ぎ続けている方もいます。もしスキルの量が収入を決めるなら、この逆転は起こらないはずです。

つまり、スキルの量と収入のあいだには、私たちが信じているような比例関係がありません。それなのに「足りないから学ぶ」という診断が繰り返されるのは、この診断がいちばん心地よいからです。学んでいるあいだは前に進んでいる実感があり、誰からも否定されません。真面目な人ほどこの方向へ努力を重ねてしまう構造については、連載の最初のなぜ、真面目なコーチほど稼げないのかで詳しく書きましたので、ここでは繰り返しません。この記事で書きたいのは、その一歩先です。では、スキルはいつ、どうやってお金に変わるのか。

スキルがお金に変わる条件——「商品」と「お客様」が揃ったときだけ

冷蔵庫の食材が一皿の料理になり値札とともにお客様の前へ運ばれる流れの図——スキルは商品になって初めてお金に変わる

結論から書きます。

スキルとは、商品という形になり、それを必要とするお客様に届いて、初めてお金に変わる「素材」である。これがこの記事の土台になる定義です。

料理にたとえると分かりやすいと思います。スキルは、冷蔵庫の中の食材です。どれだけ上質な食材を買い集めても、冷蔵庫に入っている限り、誰もお金を払ってくれません。お金が動くのは、食材が一皿の料理になり、メニューに名前と値段が載り、それを食べたい人の前に出されたときです。食材を増やすことと、料理を出すこと。この2つは、まったく別の仕事です。そして稼げていない人の多くは、冷蔵庫をいっぱいにする努力だけを、何年も続けています。

スキルのままの状態と、商品になった状態。お客様の側から見ると、この2つは別物です。表で比べてみます。

観点 スキルのまま 商品になったスキル
お客様からの見え方 見えない。「傾聴が得意です」「心理学を学びました」と言われても、自分に関係があるのか分からない 見える。「誰を、どんな未来に連れて行くか」の形になっているので、「私のことだ」と分かる
値段 付けられない。何に対する対価なのかが決まっていない 付けられる。お客様の未来に対する責任の重さとして決められる
増やしたときに起きること 素材が増えるだけで、売上は変わらない 商品が磨かれ、届けられる未来の確かさが増す

大事なことなので、はっきり書きます。お客様は、スキルを買いません。お客様が買っているのは、自分の理想の未来です。あなたがどんな資格を持ち、どんな手法を使うのかは、お客様にとって手段の話にすぎません。だから、スキルを増やす努力は、どれだけ積み重ねても、お客様から見える場所では何も起きていないのと同じなのです。冷蔵庫の中身が10品から100品に増えたことを、店の前を歩くお客様は知りようがありません。メニューが1枚も出ていないのですから。

スキルの追加は、「決めること」からの逃避である

扉の外に市場が見えているのに背を向けて本の山へ戻る人の図——学びへの逃避

ここまで読んで、こう感じた方がいると思います。スキルのままではお金にならないことくらい、言われてみれば当たり前だ。それなのに、なぜ自分は何年も、学ぶほうばかりを選び続けてきたのだろう、と。

答えは、学びのほうが圧倒的に楽だからです。楽というのは、時間や労力の話ではありません。学びは、断られないのです。講座は申し込めば受けさせてくれます。資格は勉強すれば取れます。積み上がっていく実感があり、修了証という目に見える証拠も残ります。一方、商品を決めるとは、「私は、これを、この人に、この値段で売る」と決めて、市場の前に立つことです。そこには、申し込みがひとつも入らないかもしれないという審判があります。値段を見た人が黙って離れていくかもしれないという痛みがあります。学びには、この審判がありません。だから、決めることを迫られた心は、無意識に学びへ戻るのです。「決めるのは、もうひとつ学んでからにしよう」と。

自分のスキル追加が投資なのか逃避なのかは、簡単に見分けられます。その学びが「何のためか」という問いに、商品の名前で答えられるかどうかです。「この商品のこの部分を磨くため」と答えられる学びは、投資です。「いつか役に立つと思うから」「自信をつけるため」としか答えられない学びは、決めることの先送りです。厳しい言い方になりますが、後者の学びは、何年続けても稼げる日を近づけません。それどころか、学ぶほどに「学んでいる自分」への安心が積み上がり、決める日はかえって遠のいていきます。学び続けることがむしろ成功を遠ざけていくという話は、学び続けると成功がどんどん遠ざかる理由という記事でも、昔から同じことを書いています。

「資格をもうひとつ取ってから商品を決めたい」という順番が逆であること、そして決めるからこそ準備すべきものが見えるようになることは、コーチングを本業にする人が最初にやることで詳しく書きました。ここで押さえていただきたいのは、ひとつだけです。スキルの追加は、多くの場合、前進ではなく待避なのだ、ということです。

稼げなかった頃の私のほうが、ずっと「学んで」いた

大量の道具を抱えて立ち尽くす姿と、1つの道具を箱に収めて差し出す姿の対比図

この構造を、私は理屈ではなく、自分の体験として知っています。

稼げなかった時代の私は、いまよりずっと熱心な勉強家でした。本を読み、教材を買い、セミナーに足を運び、新しい手法を仕入れる。セッションの腕にも自信がありました。それでも月商は20〜30万円で止まったままでした。当時の私の頭の中にあったのは、まさにこの記事で書いてきた診断です。「結果が出ないのは、まだ何かが足りないからだ」。足りないものを埋めるために学び、学んでも変わらず、また次を探す。冷蔵庫だけが立派になっていく日々でした。

転機は、スキルを増やすことではありませんでした。メンターの指導のもと、手持ちのもので本命商品をひとつ決めたことです。ここで注目していただきたいのは、商品を決めた前後で、私のスキルは何ひとつ増えていない、という事実です。同じ技術、同じ知識、同じ私。変わったのは、形だけです。バラバラの素材だったスキルが、「この人を、ここまで連れて行く」という一皿の商品になり、それを必要とする人に届く経路ができた。それだけで、同じスキルがお金に変わり始めたのです。スキル不足が原因なら、スキルが増えていない私の売上は変わらなかったはずです。

そしてもうひとつ、商品を決めたあとに変わったものがあります。学び方です。私はコンサル歴15年になったいまでも学び続けていますが、順番が昔とは逆になりました。学んでから決めるのではなく、決めてから学ぶ。商品が先にあるので、どの学びが必要で、どの学びが不要かは、商品から逆算すれば一目で分かります。同じ勉強でも、商品を持ってからの学びは、一つひとつがそのまま商品の品質になっていきます。学びが無駄になったのではありません。学びが効き始めるのは、決めたあとだったのです。

手持ちのスキルをお金に変える3つの手順

手のひらの素材から1つが選ばれ、箱に収められ、1人のもとへまっすぐ届く図——誰を・どこへ・どうやって

では、実務の話をします。いま手元にあるスキルをお金に変えるためにやることは、次の3つです。

  • 手順① スキルを増やす手を、いったん止める——検討中の講座や資格があっても、申し込む前にこの3つの手順を先に済ませる。判断はそれからでも遅くありません
  • 手順② 手持ちのスキルで「一番力になりたい1人」をどこまで連れて行けるかを決める——スキルの棚卸しから始めないのがコツです。棚卸しは自分側の視点なので、素材を眺める作業に戻ってしまいます。先に人を決め、その人の1年後の未来を決め、手持ちのスキルをその未来への道具として並べ直す。商品の骨組み(誰を・どこへ・どうやって)の決め方はコーチングを本業にする人が最初にやることに書いたとおりです
  • 手順③ 足りないスキルは、売りながら埋める——商品を決めると、本当に必要な学びだけが逆算で見えてきます。それだけを、お客様と歩きながら学ぶ。全部揃えてから売ろうとすると、また冷蔵庫の前に戻ってしまいます

この手順のどこにも、「新しいスキルを学ぶ」が最初に入っていないことに気づいていただけると思います。手持ちのスキルで連れて行ける範囲のお客様を決めればいいのです。持っているスキルを全部使う必要もありません。商品はお客様の未来から逆算して作るものなので、出番のないスキルが出るのは、むしろ正常です。そして、商品という形にしたスキルを、お客様に見つけてもらう言葉へ翻訳する作業が次の段になります。その手順は前号の集客を始める前に決めるべきポジションに書きました。スキルはお金に変えるだけ、という話そのものは、コーチングで稼ぐには、スキルをお金に変えるだけという記事で、開業当初から言い続けてきたことでもあります。

まとめます。スキルを増やしても稼げないのは、スキルが素材のままだからです。スキルは、商品という形になり、それを必要とするお客様に届いて初めてお金に変わります。そして、その形を決めずに重ねるスキルの追加は、多くの場合、決めることからの逃避です。もし今、次の講座の案内を眺めているなら、申し込みボタンを押す前に、いったん手を止めて自問してみてください。「この学びは、どの商品のためか」。商品の名前で答えられないなら、あなたに必要な次の一歩は、学ぶことではなく、決めることです。

よくある質問

いま受講中の講座があります。途中でやめるべきですか?

やめる必要はありません。変えるべきは、講座ではなく目的のほうです。先に本命商品の骨組み(誰を・どこへ・どうやって)を決めてしまい、その講座を「商品のどの部分を磨くための学びか」に接続し直してください。接続できれば、その講座は投資に変わります。どうしても接続できないなら、修了だけを目的に惰性で通う時間を、商品づくりに振り替えることをおすすめします。学んだ内容が消えるわけではありません。

資格も実績もありません。それでもスキルはお金に変わりますか?

資格の数や肩書きが契約の決め手になることは、ほとんどありません。お客様が見ているのは、「この人は、私を理想の未来に連れて行ってくれるのか」の一点だけだからです。大事なのは、いまの自分のスキルで責任を持って連れて行ける範囲の1人を決めることです。背伸びをした商品を作る必要はありません。過去の自分より少し手前にいる人であれば、あなたの経験そのものが、その人にとっての価値になります。

スキルに自信が持てないまま商品にするのは、お客様に失礼ではありませんか?

誠実さの向き先を確認してください。お客様への誠実さとは、学び続けて完璧になってから登場することではなく、決めた未来まで並走する責任を引き受けることです。自信のなさを埋めるための学びには終わりがなく、その間、あなたのスキルで変われたはずの人は、変われないまま待っています。自信は、学びの量ではなく、お客様と結果に向き合った時間から育ちます。順番は、商品が先、自信は後です。

複数のスキルを持っています。全部を商品に入れるべきですか?

入れないことをおすすめします。商品はスキルの詰め合わせではなく、お客様の未来から逆算して作るものだからです。あれもできます、これもできますと足すほど、商品は「何でも屋の幕の内弁当」になり、誰の「私のことだ」も起こせなくなります。1人のお客様の未来に必要なものだけを選び、残りは出番待ちにしておく。商品が売れて、お客様の層が広がったとき、眠っていたスキルが次の商品の素材になります。

学ぶこと自体が好きです。学び続けてはいけないのでしょうか?

学びそのものは財産であり、やめる必要はまったくありません。問題は、学びの善し悪しではなく、順番と役割です。商品を決める前の学びは「決めない理由」として働きやすく、決めたあとの学びは商品の品質として積み上がります。学ぶなとは言いません。決めてから、学んでください。それだけで、あなたの学び好きは、稼げない原因から、他のコーチが追いつけない強みに変わります。

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この記事を書いた人

株式会社マインドコーチ 代表取締役 安達慎一

集客やセールスが苦手な稼げないコーチの方向けに、コーチングビジネスの基本を教えています。起業家を育成しています。

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