コーチングのクライアント獲得は、SNSのやり方や広告のテクニックで決まるものではありません。順番で決まります。誰をどこへ連れて行くのかという商品と、誰のための専門家なのかという旗。この2つが決まっている人にとって、獲得の経路は驚くほど単純になります。そして最初の1人は、SNSや広告の向こうにいる見知らぬ誰かではなく、今すでに接点のある人、過去のあなたに近い人の中から現れることがほとんどです。この記事では、有料クライアントがゼロ〜数人で止まっている方に向けて、最初の1人、そして最初の3人を獲得するまでの実務を、順番どおりにお伝えします。
クライアント獲得の悩みは、テクニックの不足ではなく「順番の崩れ」である

「どうすればクライアントを獲得できますか」。私の個別相談で、いちばん多く出る質問のひとつです。そして、この質問の続きは、たいてい手段の話になります。「SNSはどれを使えばいいですか」「広告は出したほうがいいですか」「DMを送るのは効果がありますか」。資格を取り、学びを終え、いざ有料のクライアントを、となった途端、獲得の悩みは手段の悩みとして押し寄せてきます。
私はビジネスコーチとして、個別相談800人超・セッション6,000時間超の記録を見てきました。その中で、はっきり言えることがあります。クライアントがゼロのまま止まっている人と、安定して獲得している人を分けているのは、手段の知識でも、SNSのうまさでもありません。分けているのは、順番です。獲得できていない人ほど、手段の情報はむしろ詳しいくらいです。それでも獲得できないのは、手段の手前にあるものが決まっていないからです。
土台として、言葉の定義を書いておきます。
クライアント獲得とは、あなたの商品を必要とする人が、あなたにたどり着く経路を作ることです。
この定義の中に、獲得の前提が2つ入っています。「あなたの商品」と「それを必要とする人」です。つまり、誰を、どんな未来に、どうやって連れて行くのかという本命商品が決まっていること。そして、その商品をお客様の言葉に翻訳した旗、つまりポジションが立っていること。商品の決め方はコーチングを本業にする人が最初にやることで、旗の立て方は集客を始める前に決めるべきポジションで書いたとおりです。順番は、商品→ポジション→獲得。前提が決まらないまま手段だけを探すのは、目的地を決めずに乗り物を選んでいるのと同じです。この記事は、前提を決めた人のための、その先の実務です。
最初の1人は、遠くの見知らぬ人ではなく「すでに接点のある人」の中にいる

クライアント獲得というと、多くの方は、SNSや広告の向こう側にいる見知らぬ誰かを連れてくる場面を想像します。だから、フォロワーを増やさなければ、露出を増やさなければ、と考えます。実際は、逆です。最初の有料クライアントは、すでに接点のある人の中から現れることが、圧倒的に多いのです。
理由は単純です。獲得の経路のうち、いちばん時間がかかる区間は「あなたを知り、信頼する」までの区間だからです。見知らぬ人は、この区間をゼロから歩いてもらう必要があります。一方、すでに接点のある人は、この区間をとっくに通過しています。あなたの人柄を知っていて、あなたの変化を見てきた人が、あなたのすぐ近くにいる。最初の1人を探す場所として、ここより近い場所はありません。具体的には、次のような接点を棚卸ししてみてください。
- 過去に悩みを相談されたことがある人——あなたに話を聞いてほしいと、すでに一度選んだ人です
- 学びの場の仲間や同期——あなたがどれだけ真剣に学んできたかを、いちばん近くで見てきた人です
- 発信にいつも反応をくれる人——数は少なくても、旗に足を止めてくれている人です
- 以前の職場やコミュニティで、過去のあなたと同じ場所にいる人——あなたの商品は、過去の自分に近い人のために作られているはずだからです
ここで、大事な注意をひとつ。これは、知り合い全員に売り込め、という話ではありません。見込み客とは、あなたの商品を必要とする人のことであって、誰でもいいから集めた人のことではない。このことはコーチングで稼げない人が勘違いしている「見込み客」の集め方という記事で、開業当初から言い続けてきました。やることは売り込みではなく、旗を伝えることです。「いま、こういう人が、こうなるための仕事をしています」と、決めた一文をそのまま知らせる。それだけでいいのです。必要のない人は聞き流し、必要な人だけが足を止めます。旗を伝えるだけなら、断られても人間関係は壊れません。壊れるのは、必要のない人を説得しようとしたときです。
無料で数をこなすより、「本命商品を前提にした体験の場」をひとつ作る

最初の1人の居場所が見えてきたら、次に決めるのは受け皿です。ここで多くの方が選んでしまうのが、「まずは無料で」「モニター価格でたくさん経験を積んでから」という道です。気持ちはよく分かります。実績のない自分が有料で案内するのは怖い。でも、この道には終わりがありません。無料の数をいくらこなしても、「そろそろ有料でも大丈夫だ」と思える日は来ないのです。準備が整ってから決めるのではなく、決めるから準備が定まる。連載で繰り返してきた原則は、獲得の場面でも同じです。
やるべきことは、数をこなすことではなく、本命商品を前提にした体験の場をひとつ作ることです。体験の場とは、本命商品への入口として設計された1回のセッションのこと。同じ「1回のセッション」でも、無料の数こなしとは、まったく別のものです。表で比べてみます。
| 観点 | 無料の数こなし | 本命商品を前提にした体験の場 |
|---|---|---|
| 目的 | 実績と自信を貯める(自分のための時間) | 本命商品が必要かどうかを一緒に確かめる(相手のための時間) |
| 来る人 | 無料だから来る人 | 旗に反応して来る人 |
| 終わったあと | お礼を言われて終わり。次につながる道がない | 必要な人には、本命商品の案内へ自然につながる |
| 積み上がるもの | 「いつか使うはず」の経験 | 契約、または商品と旗を磨く材料 |
私はこれまで、600件を超える体験セッションを行ってきました。その記録から言えるのは、契約につながる体験セッションは、始まる前から半分決まっている、ということです。旗に反応して、案内された道筋をたどって来てくれた人は、席に着いた時点で目的が揃っています。だから、売り込みらしい売り込みは要りません。体験の場で無理に売る必要がないのは、来てもらう前の設計で決まるからだ、という話は、セールスが必要ない体験セッションとはという記事でも昔から書いています。逆に、本命商品のない体験は、どれだけ良いセッションをしても、その先に案内する場所がありません。良い時間だったというお礼だけが残り、獲得にはつながらないのです。
発信は「追いかける」ためではなく、「見つけてもらう」ためにやる

ここまで読んで、こう思った方がいるはずです。「接点のある人の中から、というのは分かった。でも、その接点は、いずれ尽きるのではないか」。そのとおりです。だから、発信を続けます。ただし、発信の役割を取り違えないでください。発信は、見知らぬ人を追いかけて捕まえるための道具ではありません。旗を立てて、必要な人に見つけてもらうための道具です。
役割をこう置き直すと、発信の悩みの大半は消えます。バズは要りません。フォロワーの数を競う必要もありません。決めた旗の下で、旗に沿った内容を、淡々と発信し続ける。書くべきことと書かなくていいことは、旗が決めてくれます。前号で紹介した、1年近く毎日発信しても申し込みが入らなかった方が、手段を何ひとつ変えず、一文を決めただけで変わっていった実例は、集客を始める前に決めるべきポジションに書いたとおりです。発信で変えるべきは、量でも媒体でもなく、旗の有無なのです。
そして、旗を立てた発信は、時間とともに効いてきます。あなたの旗に該当する人は、今日あなたを知らなくても、悩みが深くなった夜に、何かを検索し始めます。そのとき、旗の下に積み上がった発信が、その人を体験の場まで連れてきてくれます。考えてみてください。この記事を読んでいるあなた自身が、「クライアント獲得」を調べて、どこかで私の旗に足を止めた人のはずです。発信で見つけてもらうという経路は、派手さはありませんが、こうしてちゃんと機能します。接点のある人への声かけが「今日打てる手」だとすれば、旗を立てた発信は「明日以降の接点を作り続ける手」です。両方を、同時に走らせてください。
最初の1人から、最初の3人へ——広告は最後でいい

最初の1人が決まったら、次の目標は最初の3人です。1件目の契約は、ゴールではなく最初の壁にすぎません。1件取れること、続けて取れること、毎月取れること。この段階を順に越えていくことで、獲得は偶然から仕組みに変わっていきます。この段階論は安定してクライアントを獲得する方法という記事で、昔から同じことを書いています。やることを、順番に並べ直します。
- 手順① 接点の棚卸しをして、旗を伝える——今日できることです。売り込みではなく、決めた一文を知らせるだけ
- 手順② 本命商品を前提にした体験の場をひとつ作る——案内する先がないまま声をかけると、せっかくの反応が流れてしまいます
- 手順③ 旗を立てた発信を続ける——明日以降の接点を作り続ける装置です。量や媒体より、旗との一致
- 手順④ 商品と受け皿が回り始めてから、広告など有料の経路を足す——広告は経路を太くする増幅装置であって、経路そのものを作る道具ではありません
手順④について、ひとこと添えます。広告を否定しているのではありません。私自身、事業を立て直すとき、先に本命商品を決め、商品に合う仕組みを作り、それから経路を太くしていきました。順番の問題です。商品と受け皿のないまま広告費を投じるのは、穴の空いたバケツに水を注ぐようなもので、いちばん高くつく失敗になります。逆に、体験の場が回り、月に1人の獲得が続くようになってから足す広告は、同じお金でまったく違う働きをします。
まとめます。コーチングのクライアント獲得は、テクニックの問題ではなく、順番の問題です。商品を決め、旗を立てたら、最初の1人は遠くではなく、すでに接点のある人の中から探す。受け皿として、本命商品を前提にした体験の場をひとつ作る。発信は旗の下で続けて、見つけてもらう。広告は、すべてが回り始めてからでいい。もし今、SNSのテクニックや獲得のノウハウを検索し続けているなら、いったん手を止めて、紙に書き出してみてください。あなたの旗を知っていて、あなたの商品を必要としているかもしれない人の名前を。最初の1人は、そのリストの中にいます。
よくある質問
知り合いに声をかけるのは、売り込みのようで気が引けます。
売り込みと、旗を伝えることは別物です。売り込みは、相手の必要を無視して契約を迫ることですが、旗を伝えるのは「こういう仕事を始めました」と知らせることであって、判断は完全に相手に委ねられています。必要のない人は聞き流すだけで、関係は変わりません。むしろ、あなたの仕事を知らなかったせいで、力になれたはずの人が別の場所で悩み続けるほうが、もったいないと私は思います。伝えたうえで、追いかけない。この線を守れば、声かけは誠実な行為です。
接点のある人が、誰も思い当たりません。
その場合は、手順②と③から始めてください。体験の場を作り、旗を立てた発信を続ければ、接点はこれから作られていきます。ただ、その前に一度だけ、棚卸しをやり直してみてほしいのです。「クライアントになりそうな人」を探すと誰も浮かびませんが、「過去の自分と同じ場所にいる人」を探すと、顔が浮かぶことが多いからです。あなたの商品が過去の自分に近い人のためのものなら、その人たちは、あなたがかつていた場所に今もいます。
無料モニターで実績を作ってから有料にするのは、だめですか?
本命商品への入口として設計されているなら、低額や無料の体験の場は有効です。だめなのは、本命商品が決まらないまま、無料の数だけを重ねることです。その実績は「無料なら受けたい人」の実績であって、有料のお客様には積み上がりません。順番を守ってください。先に本命商品を決め、体験の場をその入口として設計する。そのうえでの1回は、たとえ無料でも、獲得に向かう1回になります。
SNSのフォロワーが少ないままでも、獲得できますか?
獲得の実務で必要なのは、フォロワーの数ではなく、旗と読者の一致です。考えてみてください。必要な契約は、まず1件です。1万人にうっすら知られることよりも、旗に該当する数十人に深く見つかることのほうが、その1件には近いのです。実際、商品と旗が決まっている人は、小さな発信からでも体験の場に人が来ます。数は、続けていれば後からついてきます。数を先に追うと、発信が旗から離れていくので、順番だけ間違えないでください。
広告を出せば、早く獲得できるのではありませんか?
商品と受け皿が回っているなら、広告は獲得を速くしてくれます。回っていないなら、速くなるのはお金が減る速度だけです。広告は、すでにある経路に人を流す増幅装置であって、商品や旗の代わりをしてくれる道具ではないからです。目安ははっきりしています。広告なしで、体験の場から契約が生まれる状態が先。それができてから足す広告は投資になり、それより前に出す広告は、高い授業料になります。
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